犬の腸リンパ管拡張症

愛犬に慢性の下痢が続いて、体重減少や腹水の貯留などの症状がみられたら、どんな病気を考えればよいのでしょうか?

3週間を超えても続く下痢を慢性下痢と呼びますが、その原因となる腸リンパ管拡張症について解説していきます。

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腸リンパ管拡張症とは

腸リンパ管拡張症とは、犬の蛋白漏出性腸症の主な原因の一つであり、消化管や腸間膜のリンパ管が異常に拡張してリンパ菅の流れが悪くなり、その結果リンパ液が漏出したりリンパ管が破裂する病気です。そして、蛋白や脂質などを豊富に含んだリンパ液が漏出しすることで、低蛋白血症や低コレステロール血症を引き起こします。

腸リンパ管拡張症は、どの犬種でも発症しますが、日本ではヨークシャーテリアとマルチーズにおける発症が多いようです。

腸リンパ管拡張症
消化管や腸間膜のリンパ管からリンパ液が漏出したりリンパ管が破裂する病気

原因

腸リンパ管拡張症はその原因によって原発性と続発性とに分類されます。

原発性腸リンパ管拡張症の原因は明らかにされていませんが、先天性のリンパ管の奇形などが考えられています。

続発性腸リンパ管拡張症は、炎症性腸疾患(IBD)などの消化管の炎症やリンパ腫などの腫瘍によるリンパ管の閉塞やリンパ節腫大、もしくはまれに右心不全や門脈圧亢進症などによる静脈血圧の上昇により二次的に起こります。

ただし、原発性腸リンパ管拡張症においても腸粘膜にリンパ球や形質細胞などの炎症細胞が浸潤することがあるため、原発性腸リンパ管拡張症と続発性腸リンパ管拡張症との区別は困難な場合もあります。

腸リンパ管拡張症の症状

主な症状は、慢性の下痢、体重減少、腹水の貯留です。しかし、中には下痢などの消化器症状を全く認めない場合もあるので、注意が必要です。

様々な基礎疾患によってリンパ液の流れが悪くなると、消化管や腸間膜のリンパ管が圧が拡張して、消化管内に蛋白や脂質などを豊富に含んだリンパ液が漏れ出します。消化管内の漏れ出た蛋白の量が、再吸収量を上回ると低蛋白血症となります。

また、消化管や腸間膜のリンパ管が破裂すると、リンパ液に対する炎症反応が起きてしまい、より一層リンパ液の流れを悪くする悪循環となります。

症状のポイント
慢性の下痢、体重減少、腹水の貯留

腸リンパ管拡張症の診断

腸リンパ管拡張症の確定診断は、消化管の内視鏡検査と生検による病理組織学的検査で行います。

超音波検査は、腸リンパ管拡張症の可能性が強く疑われる所見を得ることができる可能性があり、蛋白漏出性腸症のその他の原因(消化管型リンパ腫による腸管腫瘤など)を見つけることもできるので、実施することが推奨されています。

低蛋白血症を起こす他の病気として、肝不全、腎臓からの漏出、出血による喪失、広範囲の皮膚の浸出性病変、栄養の吸収不良や消化不良、腹水や胸水の貯留などや、消化管内寄生虫があります。

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診断のポイント
内視鏡検査と生検による病理組織学的検査

腸リンパ管拡張症の治療

続発性腸リンパ管拡張症では、基礎疾患に対する治療を行うことが治療の主体となります。原発性腸リンパ管拡張症では、以下の治療を組み合わせて行います。

食事療法

良質なタンパク質を含んだ低脂肪食が基本と考えられています。食事中の脂肪(特に長鎖グリセリド)はリンパ流量を増やし、リンパ液の漏出を増加させるため、できる限り脂肪を制限した食事を与えることが勧められています。

市販の低脂肪療法食が販売されており、栄養のバランスも調整されているので使い勝手が良いです。しかし、低脂肪療法食やその他のお薬に対する治療反応が悪い場合には、自家製の超低脂肪食が有用なことがあります。

自家製の超低脂肪食の例として、鳥ササミ肉とジャガイモの組み合わせがあります。ただし、この超低脂肪食は栄養学的な基準を満たしていないため、長期給与する場合にはビタミンやカルシウムなどの欠乏に注意が必要となります。

自家製の超低脂肪食
鳥ササミ肉とジャガイモ(ただし、栄養バランスに注意)

グルココルチコイド(ステロイド)

重度の腸リンパ管拡張症では、食事療法のみで改善が見られず、グルココルチコイド(ステロイド)の投与が必要になることもあります。

グルココルチコイド(ステロイド)の投与で改善がみられたら、2~4週間ごとにお薬を24~50%ずつ減量していきます。

経過が良好であればさらに減量していきますが、完全にはお薬をやめれない場合が多いです。

腹水に対する治療

低アルブミン血症では、血液の浸透圧が維持できないため、血液中の液体成分が血管の外に出てしまい、浮腫、腹水、胸水といった症状を呈します。犬の場合には、血清アルブミンが1.5 g/dl以下になると、これらの症状があらわれ始めます。

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これらの貯留液が多量であり臨床症状を引き起こしている場合には利尿剤を投与したり、腹水や胸水を穿刺にて抜去することもあります。

輸血

輸血により血液中の蛋白を補う方法もありますが、実際には輸血を行っても蛋白の値の増加はほとんどなく、費用に見合った効果は少ないとされています。

抗血栓療法

蛋白漏出性腸症は、血栓塞栓症の合併症を発症することがありますが、腸リンパ管拡張症に合併する血栓塞栓症の予防については現在のところ明言されていません。

必要に応じて、血栓塞栓症に対する予防的治療を行うことも考えられます。

その他の治療

低脂肪食とグルココルチコイド(ステロイド)による治療を行っても改善がみられない場合には、免疫抑制剤の投与も考えます。

低コバラミン血症が見られた場合には、注射などでコバラミンを投与することがあります。

治療のポイント
続発性では、基礎疾患に対する治療、原発性では食事療法やグルココルチコイド(ステロイド)による治療

予後

腸リンパ管拡張症の長期予後は様々ですが、症状のコントロールのために長期的なあるいは生涯にわたる治療が必要な場合が多いです。

消化器症状や体重減少が重度な場合、治療に対する反応が悪い場合には生存期間が短い可能性が示唆されています。

注意が必要な場合
消化器症状や体重減少が重度、治療に対する反応が悪い

まとめ

犬の腸リンパ管拡張症について解説しました。蛋白漏出性腸症の主な原因の一つであり、血液中の液体成分が血管の外に出てしまい、浮腫、腹水、胸水といった症状を呈することもある病気です。

この病気はお薬の治療が中心となることも多いですが、場合によっては自家製の超低脂肪食が必要となるかもしれません。

消化器症状や体重減少が重度、治療に対する反応が悪い場合には、生存期間が短い可能性がありますので、十分な注意が必要です。

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