犬の膵外分泌不全を丁寧に解説

この記事では、犬の膵外分泌不全について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で膵外分泌不全と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 長期間続く下痢をしている犬の飼い主
  • 食欲が増進してよく食べるけど痩せてくる犬の飼い主
  • 犬の膵外分泌不全について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、膵外分泌不全について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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膵外分泌不全とは

膵外分泌不全とは、膵臓からの消化酵素の分泌が低下し、消化不良になる病気です。

膵臓の働き

膵臓は胃の後ろにある臓器で、代表的な働きは①膵液という消化液を分泌し、その中の消化酵素で食べ物の消化を助ける、②インスリンなどのホルモンを分泌し、血糖値を一定濃度にコントロールすることです。

膵液は、膵臓の腺房細胞より分泌され、膵管を通して十二指腸内へ送られます。この膵液には、以下の消化酵素が含まれています。

  • 糖質を分解するアミラーゼ
  • たんぱく質を分解するトリプシン
  • 脂肪を分解するリパーゼ

膵外分泌不全では、さまざまな原因で膵臓の腺房細胞から、これらの消化酵素の分泌が低下してしまいます。消化酵素は、食べ物を消化や分解し、栄養素を吸収しやすくする働きがあります。そのため、食べ物を消化や分解することができずに、栄養が吸収できなくなってしまいます。

原因

膵外分泌不全の原因は、膵臓全体の障害と消化酵素を分泌する腺房細胞のみの障害があります。

  • 膵臓全体の障害:膵炎腫瘍などにより、膵臓の大部分が障害された場合
  • 腺房細胞のみの障害:消化酵素を分泌する腺房細胞のみ障害された場合(膵腺房細胞萎縮

過去には、膵腺房細胞萎縮が主な原因されていましたが、近年は、膵炎や腫瘍に関連した膵外分泌不全も多いとされています。

膵腺房細胞萎縮は、自己免疫性疾患が示唆されており、ジャーマンシェパード、ラフコリー、イングリッシュ・セター、チャウチャウなどでの発生が多いとされています。

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膵外分泌不全の症状

食欲が増進するにも関わらず体重が減少するのが、特徴的な症状です。

また、「未消化の脂肪により白みを帯び、表面に光沢があり、匂いの強い便」というのが典型的な膵外分泌不全の便です。しかし、このような特徴的な下痢がみられない場合もあるので注意が必要です。

既往歴として膵炎がある場合には、この病気の可能性を疑います。

併発疾患として、以下の病気が考えられます。

  • コバラミン(ビタミンB12)欠乏
  • 抗菌薬反応性腸症
  • 糖尿病

コバラミン(ビタミンB12)欠乏は、コバラミンの吸収に必要な物質も主に膵臓で合成されるため、膵外分泌不全に併発する可能性があります。

抗菌薬反応性腸症は、膵外分泌不全に併発することがあります。この病気は、膵外分泌不全を悪化させる要因となるので、注意が必要です。

糖尿病は、膵外分泌不全に併発することがあります。膵外分泌不全の原因が、膵腺房細胞萎縮の場合には、ランゲルハンス島細胞への障害は少ないため、糖尿病の併発はまれです。一方、膵炎や腫瘍に関連した膵外分泌不全の場合には、ランゲルハンス島細胞も同時に障害されることが多く、糖尿病を併発する可能性があります。

膵外分泌不全の診断

血液検査、レントゲンや超音波などの画像検査そして糞便検査を行い、追加検査としてトリプシン様活性物質(TLI)を測定して確定診断を行います。

通常、血液検査では大きな異常がみられないことが多いですが、症状が進行して痩せてきている場合には、低アルブミン血症、中性脂肪や総コレステロールの低下そして低血糖などがみられることがあります。また、糖尿病を併発している場合には、高血糖がみられることがあります。

膵外分泌不全の標準的な診断方法として、血中トリプシン様活性物質(TLI)が最も有用です。犬膵リパーゼ(cPLI)も有用ですが、血中トリプシン様活性物質(TLI)より精度が劣ると考えられています。

補助的に、血中コバラミンおよび葉酸濃度を測定することがあります。膵外分泌不全では、コバラミンが欠乏することがあるので、その場合には注射でのコバラミンの投与が必要となります。また、葉酸が高値であれば抗菌薬反応性腸症を疑うことができます。

治療による症状の改善に乏しい場合には、抗菌薬反応性腸症などの併発疾患や、消化管内寄生虫などの他の疾患を考える必要があるかもしれません。

膵外分泌不全の治療

膵外分泌不全を発症した場合、膵臓を治すことは不可能です。そのため、不足した消化酵素の補給を行い、症状の改善を目指すことが目的となります。消化酵素の補給は、基本的には生涯にわたって続ける必要があります。

補給する消化酵素は製品により、原材料、腸溶性の有無、必要な量、含まれる酵素活性などに違いがあります。日本では、以下の消化酵素が使用可能です。

  • パンクレアチン
  • エクセラーゼ
  • ベリチーム
  • コンクチーム
  • リパクレオン

これらの製品のうち、どれが最も相性が良いかは実際使用してみないと分かりません。消化酵素を補給しても、初期治療による反応が不十分な場合には、以下の方法を試してみます。

  • 他の消化酵素の製品を試してみる。特に、腸溶剤成分を含むものの方が好ましいとされている。
  • 胃内での失活を防ぐために制酸剤(H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬など)を併用してみる
  • 消化酵素を推奨投与量から開始し、徐々に増量していく

消化酵素の副作用はまれですが、口腔内出血消化器症状の悪化などが報告されています。

膵外分泌不全の食事療法について、原因別に以下のように考えられています。

食事療法とは

食事の量や成分を増減させることで病気の改善を目指します。病気の治療目的や臓器の保護目的で行われます。

  • 膵炎が原因の場合:低脂肪食が適応
  • 膵腺房細胞萎縮が原因の場合:必ずしも低脂肪食を必要としない

予後

膵外分泌不全は、治療で症状が改善すれば予後良好です。ただし、生涯にわたる消化酵素の継続的な投与を行う必要があります。

中〜大型犬では、消化酵素を継続的に使用する経済的負担があります。

まとめ

犬の膵外分泌不全について解説しました。慢性的な下痢が続き、食欲が増進してよく食べるけど痩せてくるという症状がみられたら、膵外分泌不全の可能性がありますので、動物病院を受診するようにしましょう。

治療に用いる消化酵素は、反応が良い製品や必要な投与量も犬によって差がありますので、獣医さんとよく相談すると良いでしょう。