犬の総ビリルビン(T-bil)の異常(黄疸)を獣医師がわかりやすく解説

動物病院での血液検査結果に「T-bil(総ビリルビン)」という項目があり、数値が高い・低いと説明されて戸惑ったことはありませんか?

この記事では、犬の総ビリルビン(T-bil)の異常、特に黄疸(おうだん)との関係をわかりやすく解説します。愛犬の血液検査結果を片手に、ぜひご覧ください。

・正常値は使用する検査機器や検査会社によって異なります。必ず検査結果用紙に記載された基準値を参照してください。
・検査結果が基準値を外れていても、必ずしも病気を意味するわけではありません。必ず担当獣医師の説明を受けましょう。

目次

総ビリルビン(T-bil)

総ビリルビン(T-bil)は、血液中に含まれるビリルビンの総量を示す指標です。

ビリルビンは、赤血球の寿命が尽きた際に壊れることで生じるヘモグロビンから作られます。これが肝臓に運ばれて処理され、胆汁として体外へ排出される過程に関わる重要な物質です。

  • 処理前:非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)
  • 処理後:抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)

この非抱合型(間接型)ビリルビンと、肝臓で処理された後の抱合型(直接型)ビリルビンの2つを合わせたものが、血液検査で示される総ビリルビン(T-bil: Total Bilirubin)です。

黄疸(おうだん)とは?

血中の総ビリルビン濃度が2.0〜3.0mg/dl以上になると、ビリルビンが皮膚や粘膜、眼の強膜に沈着し、黄疸(黄染)が生じます。
特に強膜(白目部分)の黄染が最もわかりやすいサインです。

なお、ビリルビンが低下することもありますが、栄養失調や小球性低色素性貧血など特殊な場合を除き、臨床上大きな意味は持たないとされています。

検査会社基準値
富士フィルムモノリス0.0~0.3 mg/dl
アイデックス(成犬)0.0~0.9 mg/dl
▲各検査会社における総ビリルビン(T-bil)の基準値

総ビリルビン高値の原因

総ビリルビンが高値を示す場合、その背景には主に赤血球の破壊増加(溶血)肝臓の処理機能の低下、そして胆管閉塞による排泄障害という3つのメカニズムが関与しています。

これらはそれぞれ以下のように分類され、原因によってアプローチが異なります。

  • 肝前性黄疸(溶血によるビリルビン増加)
  • 肝性黄疸(肝機能低下によるビリルビン処理障害)
  • 肝後性黄疸(胆管閉塞によるビリルビン排泄障害)

① 溶血性貧血(肝前性黄疸)

赤血球の破壊が過剰に進むことで、ヘムの代謝産物であるビリルビンが過剰に産生され、肝臓での処理が追いつかず血中に増加するタイプです。

溶血性貧血(肝前性黄疸)の原因
自己免疫疾患
 免疫介在性溶血性貧血
ヘモグロビンの変性
 玉ねぎ中毒
感染症
 バベシア症
 ヘモプラズマ症
先天性/後天性の赤血球膜の異常
微小血管内溶血
 播種性血管内凝固(DIC)
 血管肉腫
 犬糸状虫症

② 肝臓の異常(肝性黄疸)

肝臓自体の機能低下によってビリルビンの処理能力が低下し、血中に蓄積するタイプです。
なお、肝臓の70%を切除しても黄疸は見られないので、重度に肝機能が低下していないと肝性黄疸は起きないとされています。

肝臓の異常(肝性黄疸)の原因
急性/慢性肝炎
肝硬変
肝臓の腫瘍(リンパ腫、肝細胞癌、血管肉腫など)
レプトスピラ症
薬物性肝障害

③ 肝外胆道閉塞(肝後性黄疸)

胆嚢から十二指腸までの胆管のどこかが閉塞することで、ビリルビンの排泄が阻害され、血中に逆流して増加するタイプです。

肝外胆道閉塞(肝後性黄疸)の原因
胆石による総胆管閉塞
胆嚢粘液嚢腫
急性膵炎
慢性膵炎
十二指腸や膵臓の腫瘍

総ビリルビン(T-bil)低値の原因

総ビリルビン(T-bil)の低値は、一般的に臨床的な意義はほとんどありません。ただし、重度の栄養不良や悪液質、または極端な貧血(小球性低色素性貧血)などが原因で、ビリルビンの産生が低下することで見られることがあります。

まとめ

犬の総ビリルビン(T-bil)の異常と、そこから生じる高ビリルビン血症(黄疸)について解説しました。

黄疸の原因を探る際には、まず「肝前性(溶血性貧血)」「肝性(肝疾患)」「肝後性(胆道閉塞)」のどれに分類されるのかを判断することが重要です。

このため、追加検査として以下のようなものが実施されます。

  • 血液検査(赤血球、肝酵素など)
  • 画像検査(レントゲン、超音波検査など)

高ビリルビン血症は命に関わる深刻な疾患が隠れている可能性もあるため、早期発見と原因特定が大切です。

血液検査の結果に不安がある場合は、遠慮なく動物病院の獣医師に相談しましょう。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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