犬の水疱性類天疱瘡を丁寧に解説

この記事では、犬の水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で水疱性類天疱瘡と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 犬の皮膚に膿疱(膿汁の入った水疱)がみられる犬の飼い主
  • 犬の水疱性類天疱瘡について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、水疱性類天疱瘡について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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犬の水疱性類天疱瘡とは

水疱性類天疱瘡は、表皮の基底膜を標的抗原とした自己抗体の産生を特徴とする自己免疫性皮膚疾患です。自己抗体が皮膚を傷害することで、皮膚に水ぶくれ(水疱)がみられる病気です。

自己免疫疾患とは

免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気

表皮内水疱症と表皮下水疱症

落葉状天疱瘡尋常性天疱瘡などの天疱瘡群を「表皮内水疱症」と呼ぶのに対し、水疱性類天疱瘡、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症などの類天疱瘡群は「表皮下水疱症」と呼ばれます。

表皮内水疱症に比べて表皮下水疱症は、水疱が破けにくいとされています。

原因

水疱性類天疱瘡は、表皮と真皮の境にある基底膜に存在する接着因子(ヘミデスモソーム)の構成タンパクである17型コラーゲン(COL17)に対する抗体ができることによっておきる病気です。

なお天疱瘡群は、表皮細胞と表皮細胞の接着因子(デスモゾーム)に対する自己抗体ができる病気です。

▲天疱瘡および類天疱瘡の病変形成部位の比較
(参考)ヒトの水疱性類天疱瘡
 ヒトの水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部抗原(ヘミデスモソーム構成蛋白であるBP180とBP230)に対する自己抗体(IgG)の関与により、表皮下水疱を生じる自己免疫性水疱症の代表的疾患とされています。

発生頻度

★☆☆☆☆ ほとんどみない病気

発生頻度を5段階で評価。5:日常的にみられる病気 4:よくみられる病気 3:時々みられる病気 2:めったにみない病気 1:ほとんどみない病気

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水疱性類天疱瘡の症状

水疱性類天疱瘡では、皮膚に水ぶくれ(水疱)がみられるのが特徴的です。しかし、実際には小水疱や水疱がみられることは稀で、潰瘍性病変がみられることが多いです。

潰瘍性病変がみられる部位として、皮膚(特に頭部、頚部、脇の下、太ももの付け)、皮膚粘膜境界部(外鼻孔、まぶた、口唇)、粘膜(口腔内、肛門、外陰部、包皮、結膜)および足底が代表的です。

重度な場合には、食欲不振、元気や食欲の低下、発熱がみられます。

水疱性類天疱瘡の診断

水疱性類天疱瘡の診断は、切除生検を行います。

切除生検とは

組織の一部分を切除して顕微鏡で観察する検査

切除生検では、病理組織学的検査を行い確定診断を行います。

病理組織学的所見では、表皮直下の裂隙と水疱がみられます。

似たような症状を示すものとして、以下の皮膚病があります。

水疱性類天疱瘡の治療

水疱性類天疱瘡の治療は、内科的治療です。

内科的治療は、グルココルチコイド(ステロイド)が中心となります。グルココルチコイド(ステロイド)は、免疫抑制量のプレドニゾロンないしメチルプレドニゾロンが用いられることが多いです。

また、グルココルチコイド(ステロイド)の使用量を減らすために、他の免疫抑制剤やグルココルチコイド(ステロイド)含有の外用薬を併用する事もあります。

グルココルチコイド(ステロイド)は、皮膚病変が消失した後に、寛解が維持できる最低用量まで漸減します。

グルココルチコイド(ステロイド)減量の一例
4~10週間治療し病変部が消失したら、8~10週間かけて隔日投与で寛解が得られる最低維持用量まで、用量を徐々に減量する

免疫抑制剤の例としては、アザチオプリン、シクロスポリン(商品名:アトピカ)、ミコフェノール酸モフェチルなどが挙げられます。

グルココルチコイド(ステロイド)は、皮膚病変が消失した後に、寛解が維持できる最低用量まで漸減します。例えば、病変部が消失したら(治療開始後4~10週間)、数週間(8~10週間)かけて隔日投与で寛解が得られる最低維持用量まで、用量を徐々に減らします。

寛解を維持するために、グルココルチコイド(ステロイド)単独の投与で効果が得られることもありますが、結果として副作用が発現する可能性があります。そこで、免疫抑制剤の併用や単独での治療を行うことが、長期維持を行う場合に推奨されます。

免疫抑制剤として、アザチオプリン、クロラムブシル、テトラサイクリン/ニコチン酸アミド、およびシクロスポリン(商品名:アトピカなど)があります。

予後

寛解状態を維持するために、通常生涯に渡る治療が必要となります。臨床症状や血液検査の定期的なチェックを行い、必要に応じて治療法を見直すことが重要です。

治療により起こる可能性のある合併症は、重篤な副作用や免疫抑制による細菌感染、皮膚糸状菌症、ニキビダニ症などです。

まとめ

犬の水疱性類天疱瘡について解説しました。人の医療では天疱瘡群はニコルスキー(Nikolsky)現象が陽性なのに対して、水疱性類天疱瘡は陰性になるという違いがあるとされています。このニコルスキー現象とは、健常な皮膚に機械的刺激(圧迫・摩擦)を加えると表皮の剥離もしくは水疱を生じることで、表皮細胞同士の結合が緩む疾患で陽性になります。

実際には臨床症状でこれらの疾患を区別することは難しいので、皮膚生検で判別していきます。