犬の無機リン(IP)を獣医師がわかりやすく解説

動物病院で愛犬の血液検査を受けた際、検査結果の見方に戸惑ったことはありませんか?
本記事では、血液検査の「無機リン(IP)」の異常についてわかりやすく解説します。
ぜひ、愛犬の検査結果を片手にご覧ください。

※正常値は検査機関や機器によって異なるため、必ず検査結果に記載された基準値を参考にしましょう。
※また、基準値を外れていても必ずしも病気というわけではありません。獣医師とよく相談することが大切です。

目次

無機リン(IP)とは

リンはミネラルの一種で、カルシウムに次いで体内に多く存在しています。
無機リンはカルシウムとともに骨を形成する重要な成分であり、またDNA・RNAといった核酸や細胞膜、エネルギー代謝に関与するATPなどの構成要素としても不可欠な存在です。

血液中の無機リン濃度は、活性型ビタミンD₃による腸管吸収の促進、上皮小体ホルモン(PTH : Parathyroid Hormone)による尿細管での再吸収抑制などによって調整されています。
さらに、骨からの放出や腎臓での排泄が影響し、特に腎機能障害があると尿中排泄が低下し、血中無機リンが上昇します。

無機リン(IP)の血中濃度が高くなる状態は「高リン血症」と呼ばれます。最も一般的な原因は、腎不全によってリンの排泄がうまく行われなくなることです。その他にも、骨に関連する疾患内分泌系の異常リンの過剰な摂取などが高リン血症の原因となることがあります。

一方、無機リン(IP)の血中濃度が低下する状態は「低リン血症」と呼ばれます。これは、腎臓からのリンの喪失細胞内へのリンの移動、または腸管でのリン吸収が低下することなどによって引き起こされます。

検査会社基準値
富士フィルムモノリス2.0~5.3 mg/dl
アイデックス(成犬)2.5〜6.8 mg/dl
アイデックス(子犬)5.1〜10.4 mg/dl
▲各検査会社における無機リン(IP)の基準値

無機リン(IP)高値の原因

高リン血症は、腎臓でのリンの排泄がうまくいかなくなることや、体内でリンが移動すること、リンを過剰に摂取することなどが原因で起こります。また、これら以外の要因によっても生じることがあります。

無機リン(IP)高値の原因
腎臓からの排泄の低下
 急性腎不全
 慢性腎臓病
 尿道閉塞
 脱水
 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
 ショック
 上皮小体機能低下症
体内でのリンの移動
 骨腫瘍
 骨融解
 骨格筋の破壊
 腫瘍の溶解(急性腫瘍溶解症候群)
リンの供給過剰
 リンのサプリメント
 リンを含む点滴
その他
 二次性上皮小体機能亢進症(栄養性)
 ビタミンD中毒
 検査エラー(高脂血症、溶血)

無機リン(IP)低値の原因

低リン血症は、腎臓からリンが失われてしまったりリンが細胞の中に移動してしまったり、腸管でのリンの吸収がうまくいかないことなどが原因で起こります。

無機リン(IP)低値の原因
腎臓からの喪失
 原発性上皮小体機能亢進症
 ファンコーニ症候群
 利尿薬の投与(特に炭酸脱水素酵素阻害薬)
細胞内へ移動
 インスリン投与(特に糖尿病性ケトアシドーシス時)
 完全静脈栄養
 呼吸性アルカローシス
腸管での吸収の低下
 リン制限食
 リン吸着剤
 ビタミンD欠乏
 吸収不良症候群

まとめ

犬の血液検査における無機リン(IP)の異常について解説しました。
血液検査の結果が基準値を外れていても、必ずしも病気と診断されるわけではありません。

診断には身体検査、画像検査、尿検査、さらに必要に応じて上皮小体ホルモン(PTH)の測定などを組み合わせて行います。

もし検査結果について心配なことがあれば、遠慮せず担当の獣医師に相談してくださいね。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次