この記事では、犬の慢性下痢について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、慢性下痢について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
慢性下痢とは
下痢とは主に消化機能の異常によって、普段より軟らかい便が出ることです。
下痢は便の軟らかさによって軟便(なんべん:ギリギリ掴める硬さ)、泥状便(でいじょうべん:泥のような硬さで掴めない)そして水様便(すいようべん:水のような液体)などと表現します。
短期間で治る急性下痢の発症が多いですが、長期間下痢が続く場合があります。3週間を超えても下痢が続く場合を、慢性下痢と呼びます。
激しい症状だけどすぐ治るのが急性下痢、緩やかな症状だけどなかなか治らないのが慢性下痢というのが典型的な症状です。
原因
病気が小腸にある場合には小腸性下痢といい、大腸にある場合を大腸性下痢といいます。①小腸性下痢も大腸性下痢も起こす病気、②小腸性下痢を起こす病気、③大腸性下痢を起こす病気に原因は分類されます。
小腸性下痢と大腸性下痢の区別として、小腸性下痢では、便の回数は変わらないが1回の便の量が多く、体重が減ってくることが特徴で、大腸性下痢では、1回の便の量は少ないでが便の回数が多くなるが、体重の減少がみられないのが特徴です。
慢性下痢の症状
前述の通り、下痢は小腸性下痢と大腸性下痢に分類されます。小腸は主に栄養を吸収する消化管で、大腸は主に水分を吸収する消化管ですので、この違いが小腸性下痢と大腸性下痢の違いとなっています。
腹痛があると、前肢をのばして胸を床につけ腰を上げる「祈りの姿勢」や背中を丸める「背湾姿勢」がみられることがあります。
便に血液が混ざることを血便(鮮血便)といい、消化された血液に由来する、黒色のタール状の便のことをメレナ(タール便)といいます。メレナは食道、胃、小腸における出血を意味します。一般的には、血便よりもメレナの方が重篤な病気で見られることが多いです。
腸リンパ管拡張症では、浮腫や腹水が見られることがあり、リンパ腫などの腫瘍では、お腹の中に腫瘤(できもの)が触れることがあります。
小腸性下痢の症状
便の回数は変わらないですが、1回の便の量が多くなります。体重が減ってくることが多いです。
大腸性下痢の症状
1回の便の量は少ないですが便の回数が多くなり、しぶり(何回もトイレをする様子)が見られます。通常、体重の減少はありません。
慢性下痢の診断
急性下痢の場合には他に異常がなく元気であれば、検査は必ずしも必要ではなく、対症療法(症状を軽減するための治療)を実施することが多いですが、慢性下痢では検査は必須です。
初診時の基本検査として、糞便検査、血液検査、レントゲン検査や超音波検査などの画像診断、尿検査などを必要に応じて行います。
精密検査として、尿蛋白/クレアチニン比(UPC)、血清総胆汁酸試験(TBA)、ACTH刺激試験、トリプシン様免疫反応活性試験、血清コバラミンと葉酸、内視鏡検査、試験的開腹などを選択します。
慢性下痢の治療
緊急的な治療として、容易に消化できる療法食(低脂肪食)を少量頻回(3~6/日)与えたり、消化の良い低繊維性食物として、低脂肪カッテージチーズ、豆腐、米、ジャガイモなどを与えることがあります。また、大腸炎には、高繊維食が有効なことがあります。
経験的な治療法として、検査で陰性であっても駆虫薬を投与したり、抗菌薬を投与することがあります。
長期的な治療は、基礎疾患に応じた治療となります。
予後
予後は、基礎疾患によります。また、病気の治療をどこまで受け入れることができるかにもよります。多くの場合、生涯にわたる治療が必要となることが多いです。
予後に注意が必要なものとして腫瘍(リンパ腫、腺癌など)、腸リンパ管拡張症、抗菌薬反応性腸症、炎症性腸疾患(IBD)があります。
予後が良好なものとして、食物(食物不耐性/アレルギーなど)、細菌(クロストリジウム属など)、寄生虫(鞭虫、ジアルジア、コクシジウムなど)、膵外分泌不全、犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)があります。
進行した病気では、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返し、治療に挫折することもあります。
まとめ
犬の慢性下痢について解説しました。犬の慢性下痢は、生涯にわたる治療が必要となることが多く、進行した病気では、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すため、治療に挫折することもあります。
治療に困ったときは、獣医さんと良く相談して、色々な治療の選択肢を提案してもらうと良いでしょう。