この記事では、犬の急性腎不全について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、急性腎不全について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
犬の急性腎不全とは
腎不全とは、腎臓の機能が低下した状態をいいます。腎不全には、急激に腎臓の機能が低下する急性腎不全(急性腎障害)と、数か月から数年の長い年月をかけて腎臓の働きがゆっくりと悪くなる慢性腎臓病(慢性腎不全)があります。
急性腎不全は適切な治療を行えば腎機能回復の可能性がありますが、慢性腎臓病になると腎臓の機能の回復は見込めません。腎臓の機能はいちど失われると、回復することがない場合が多いです。
急性腎不全では、急激な腎臓の機能の低下に伴って、生体の恒常性を維持することが困難となります。その結果として、高窒素血症や電解質異常そして酸塩基平衡異常などが引き起こされて、いわゆる「尿毒症」の症状がみられます。
急性腎不全は、早期診断し適切な治療を開始することによって、腎機能の回復の可能性があります。しかし、治療を行っても完全に回復することなく、慢性腎臓病に移行する場合もあり、また、治療が奏功しない場合には死に至る場合もあります。
急性腎不全の原因
腎臓の機能が急激に低下する原因は、腎前性、腎性、腎後性の三つに分類されます。この分類は治療にも関係するので、とても重要です。
腎前性腎不全
腎臓に流れてくる血液が減ることが原因となる腎不全です。腎臓への血流の低下により糸球体濾過率が低下し、尿量が少なくなった状態です。
腎性腎不全
腎臓そのものが障害されることが原因となる腎不全です。腎臓自体の障害で、糸球体濾過量が低下している状態です。
腎後性腎不全
尿の排出経路が閉塞することが原因となる腎不全です。尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)が詰まっているため、尿を排出できず腎臓がダメージを受ける状態です。
急性腎不全の症状
急性(数日以内)の食欲不振や元気消失、嘔吐や下痢などの胃腸症状、痙攣などがみられますが、急性腎不全に特異的な症状はありません。
尿は、一過性に多尿になる場合もありますが、ほとんどでない場合や全くでなくなる場合もあります。
身体検査では、重度の脱水がみられることが多いです。しかし、慢性腎不全と違い、痩せてきたり、毛がゴワゴワする症状はみられません。
尿毒症にまでなっている場合では、舌の潰瘍やアンモニア臭の口臭がみられます。
急性腎不全の診断
問診では、急性腎不全に特異的な症状が無いため、診断は困難です。
血液検査を行い、高窒素血症(血中尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)の高値)、高カリウム血症、高リン血症、代謝性アシドーシスが存在すれば、急性腎不全が疑われます。
急性腎不全が疑われた場合には、さらにレントゲン検査と超音波検査を行います。レントゲン検査では、腎臓の大きさや形や尿路結石の有無を、超音波検査では、腎臓の構造を確認します。特に、腎後性の急性腎不全では、画像検査によって尿路閉塞の原因が特定される場合があります。
尿検査では、腎前性の急性腎不全の場合、尿比重が高くなるのが特徴的です。
急性腎不全の治療
急性腎不全の治療目的は、①腎臓の機能を悪化させている原因で特的できるもの(出血、重度の脱水、低血圧、腎毒性物質、尿路閉塞など)をできる限り排除し治療すること、②一過性に悪化した腎機能が回復するまで生命の危機となるような異常(脱水、高カリウム血症、代謝性アシドーシスなど)を補正し、利尿を促すことです。
その為には、急性腎不全の原因が腎前性か腎性か腎後性かを判断することが非常に重要です。
腎前性腎不全の場合には、腎臓の血流量を確保するすることが重要であり、腎後性腎不全の場合には、閉塞の解除が最も重要です。
全ての腎不全の治療の基本は、輸液療法(点滴療法)です。①体液と電解質のバランスの補正、②腎臓への血流の確保、③利尿の促進を目的として行います。
予後
急性腎不全で尿が作られない状態が続くと、数日以内に死亡してしまいます。
腎前性および腎後性の急性腎不全では、原因の治療が可能でれば良好です。また、腎性の急性腎不全では、発見が早く、適切な輸液療法(点滴療法)などにより、尿が十分に作られれば良好です。
まとめ
犬の急性腎不全について解説しました。急性腎不全の原因となるものには、我々の身近にあるユリやレーズンなど植物があります。また、車の不凍液として使用されているエチレングリコールも急性腎不全の原因となりますので、寒い地方に住んでいる方は注意が必要です。
急性腎不全は、早期に発見し適切な治療を開始すれば、回復の可能性のある病気です。愛犬に気になる症状や思い当たる原因があれば動物病院を受診するようにしましょう。