この記事では、犬の食物アレルギー(胃腸性)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、食物アレルギー(胃腸性)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
食物アレルギーとは
食物アレルギーは、食べ物に対して過敏に反応し、体に有害な症状が起きる病気です。食物過敏症とも呼ばれます。食物アレルギーは、下痢や嘔吐が起きる消化器症状と痒みが起きる皮膚症状があります。
この記事では、下痢や嘔吐などの消化器症状がみられる、食物アレルギー(胃腸性)について解説します。
食物に対して体に有害な症状が起きる病気には、食物アレルギーと食物不耐症があります。食物アレルギーと食物不耐症は、以下の点で異なります。
- 食物アレルギー:免疫反応が関与している
- 食物不耐性:免疫反応が関与していない
アレルギーには、いくつか種類があります。アレルギー反応がどのように起こるかによって、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型の4種類に分類されています。
食物アレルギーでは、Ⅰ型(即時型)またはⅣ型(遅延型)の関与が考えられています。
発症年齢は、1歳未満か5歳以上が典型的です。以下の犬種が、好発犬種として報告されています。
コッカースパニエル、ラブラドール、コリー、ミニチュアシュナウザー、ウエスティー、ダックス、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリバー
アイリッシュセッターでは、遺伝性のグルテン過敏症が報告されています。
小麦、大麦、ライ麦のグルテン部分に含まれるグリアジンは強力な抗原となることが知られており、「グルテン過敏性腸炎」を引き起こします。
原因
食物アレルギーが起きる原因として、以下の要因が考えられています。
- 胃腸粘膜障壁の変化
- 経口免疫寛容の低下
以下の基礎疾患があると、食物アレルギーの発症率が高くなります。
- ウイルス性腸炎
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 免疫グロブリンA欠損症
- アレルギー性疾患
食物アレルギーの症状
食物アレルギーは、消化器症状と皮膚症状がみられます。これらの症状が進行する前に、原因食物を数ヶ月〜数年の間摂取していることが多いです。
以下の症状が、消化器症状としてみられます。
- 嘔吐
- 体重減少
- 間欠的な腹痛
- 軟便や下痢
- 腹部膨満
- 排便回数の増加
- イライラした態度
以下の症状が、皮膚症状としてみられます。
- 痒み
- 外耳炎
- 蕁麻疹
食物アレルギーは、慢性嘔吐や慢性下痢などの胃腸症状がみられる場合には、必ず考えなければならない病気のひとつです。
食物アレルギーの診断
慢性嘔吐や慢性下痢などの胃腸症状がみられる場合に、食物アレルギーを疑います。食物アレルギーは、①他の慢性胃腸症状を示す疾患の除外と、②除去食試験で診断します。
以下の病気が、除外すべき慢性胃腸症状を示す他の病気として重要です。慢性胃腸疾患や代謝性/内分泌性疾患があります。
他の慢性胃腸疾患を除外するために、以下の検査を必要に応じて行います。
- レントゲン検査や超音波検査などの画像検査
- 消化管生検を行い病理組織学的検査
除去食試験では、除去食のみを試験期間中の与えるようにします。与える除去食は、かつて摂取したことのある成分が除かれている食事を選択することが重要です。
除去食を与えて症状が改善し、誘発試験で原因食物が特定できれば確定診断となります。
除去食試験の期間中は、抗菌薬やグルココルチコイド(ステロイド)などの結果に影響を与える因子にも配慮が必要です。
食物アレルギーの治療
食物アレルギーは、単に原因食物を摂取しないことが治療となります。
除去食の種類
除去食には、家庭調理食と市販のアレルギー用の療法食があります。
一般に、家庭調理食が除去食として最良の方法とされています。ただし、家庭調理食が長期間になる場合には、栄養のバランスに配慮する必要ああります。
除去食の成分
理想的には新しい蛋白(鹿肉、アヒルなど)と炭水化物を含む同じ食事を与えます。
除去食試験の期間
除去食試験は、概ね4~8週間続けていきます。
除去食試験の実施期間中は、他のフード(おやつ、サプリメントも含む)を与えることは禁止します。これは、食物アレルギーは免疫反応なので、一回でも与えてしまうと、アレルギー反応が再発してしまうからです。
除去食試験では、胃腸の症状は数日以内に緩和し始め、大きな改善は通常4週間以内に起こるとされています。また、きちんと除去食のみを8週間与えた後でも、臨床症状の改善がない場合、食物アレルギーの可能性は極めて低いと考えていきます。
症状の緩和に、グルココルチコイド(ステロイド)による治療が必要なこともありますが、除去食試験の実施期間中に投与してしまうと、正しい結果の評価ができなくなってしまいます。
誘発試験
除去食試験によって改善がみられた場合、誘発試験を行います。
これは、症状が再発するまで一つずつ食物を追加していく試験です。これにより、原因食物を特定します。
予後
原因食物が食事から取り除かれれば、症状の改善がみられるので、予後は良好です。
与える食事をコントロールしなければならないので、世話をする全員の協力が必要です。
まとめ
犬の食物アレルギーについて解説しました。この病気は、原因食物が特定でき、その食物が食事から取り除かれれば予後は良好です。
除去食試験では、除去食以外の物を一切与えないようにしなければならないので、愛犬のお世話をする人全員が協力しなければなりません。